転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


196 この二つ、似てるけど全然違うものなんだってさ



「ところで魔法陣を刻んだこの魔石、どうするの? やっぱり魔道リキッドにしちゃうの?」

 いっぱい喜んだ後、僕は手の中にある魔法陣を刻んだ魔石をバーリマンさんに見せながらこう聞いたんだ。

 だってこれ、小豆くらいの大きさだから光の魔石にしてたとしても多分ちょっと明るめの豆電球くらいにしかならないんじゃないかって思ったから。

「もちろんランプの魔道具に使うわよ?」

 ところが、こんな答えが帰って来たもんだからびっくり。

 だから僕は、こんなに小さい魔石なのに? って聞いたんだけど、

「ルディーン君。何の為の魔法陣だと思っているのかしら?」

 そしたら呆れた顔されながら、こんなこと言われちゃったんだ。


「そもそも、魔法陣がどんな物かは覚えているわよね?」

「うん。魔法が使える魔道具を作るのに必要な物だよね?」

「そう。魔法陣は魔法を発動させる為に必要な呪文の代わりになるものなのよ」

 魔法陣はそれを刻んだ魔石とか魔物の素材とかに魔力を注ぐと魔法を発動してくれる物なんだ。

 その事は当然知ってたんだけど、僕は今までそれ以外は魔道回路図を使って作る魔道具とあんまり変わらないものだと思ってたんだよね。

 ところが、実は全然違う物だったんだ。

「ルディーン君はさっき、この大きさの魔石じゃ小さすぎると言ったわね。どうして、そう思ったの?」

「だって、こんなに小さいとあんまり強く光んないもん。だったら魔道リキッドにするしか無いって思ったんだよ」

 ランプを作ろうって思ったらもっと大きな、大豆くらいの大きさの魔石を光属性にしないとダメだって思うんだ。

 だってこんな小さな魔石で作れる明るさだったら、魔道リキッドを使う魔道具よりもロウソクとかの方が絶対安いもん。

「確かに魔石の力で光を生み出すならそうでしょう。でもね、ルディーン君。これはライトの魔法を使う魔道具なのよ?」

「あっ、そっか!」

「フフフッ、解ったみたいね」

 そっか、ライトの魔法を発動させるのに必要なMPは3。

 その発動させる為のMPさえあればライトの魔法は発動するから、こんな小さな魔石でもランプの魔道具になるってことなのか。

「例えばそうね、城のように大きな建物の中で、外の光が届かないような場所で使うのならこの魔石ではダメよ。ライトは持続時間によって必要な魔力が増えていくから、こんな小さな物を使ったら常に人がそばについて点けなおさなければいけなくなるもの。でも、夜、寝室で本を読むくらいならこれくらいの魔石を使ったライトでも十分実用的と言えるのよ」

 僕が今まで作ってきた魔道具は魔石の魔力を直接使ってたからある程度の大きさが必要だったよね。

 でもこれが魔法を発動させるのに必要な分だけしかいらないって言うのなら、確かにそんな大きな魔石はいらないんだ。

「そっか。ん? でも待って。だったらみんな魔法陣で作った魔道具にしちゃえばいいんじゃないの? だってその方が使う魔道リキッドだってちょびっとでいいはずだもん」

「確かにその通りなんだけど、そんなに都合良くは行かないのよ」

「うむ。魔石で作る魔道具の殆どはな、魔法陣に刻むべき代わりとなる魔法が無いのじゃ」

 そもそも魔法陣と言う物は魔道士の変わりに呪文を唱えてくれる道具を作るためのものなんだから、確かにその魔法がなかったら作りようが無いよね。

「例えばこのライトの魔法陣は光の魔石を用いた亜道具の代わりになるが、これがコンロの代わりとなるとそうもいかん。イグナイトでは小さな火種しか作れぬし、ファイア系の魔法じゃと、例え作ったとしても発動は一瞬の上にどこに飛んで行くか解らぬからのぉ。危なくて仕方が無いわい」

 う〜ん。一応一般魔法にヒートって言う物を暖める魔法はあるんだけど、それだと火が出るわけじゃないからお料理には使えないんだよね。

 そう考えたら魔道コンロとかは火の魔石を使って作った魔道具のほうが絶対に便利だ。

「それにね、魔法陣は勉強さえすればどんな魔法でも刻めるようになるわけじゃないのよ」

「うむ。その魔法を使える者でなくては例え正しい魔法陣を構築したとしても、それを刻む事はできぬのじゃ」

 言われてみれば確かに、どんな魔法だって呪文を書くだけで使えるようになるなんてそんな都合のいい話があるはず無いよね。

 実際にその魔法が使える人が呪文を唱える代わりに魔石に刻むからこそ、その魔法陣が発動するんだよって言われるとそりゃそうだよって思えるもん。

「じゃからのぉ、書けたらよいなと思う魔法陣の多くが、実際には構築できておらんと言うのが実情なのじゃよ」

「そっか。そう言えば魔法神社雲のお菓子を作る魔道具は作れないもんね。あっ、でもこの間作ったお部屋を冷やす魔道具は魔法陣で作ったほうが便利かも?」

 ヒートを使えばお砂糖を溶かせるかもしれないけど、それを入れた缶を回す事ができないもん。

 今でも一個の魔石で作れるんだから、わざわざ魔法陣を刻んだ魔石を別につける必要ないから、あれは絶対魔石を使った方が簡単だ。

 そう思いながら僕がうんうんと頷いてると、

「えっと、ルディーン君。お部屋を冷やす魔道具って?」

 何でかバーリマンさんがびっくりした顔して僕に聞いてきたんだ。

 だからね、お家でパンケーキやいてるととっても暑くなるから、お台所が涼しくなる魔法具を氷の魔石を遣って作ったんだよって教えてあげたんだよ。

「でもね。氷の魔石でお部屋を涼しくしようと思ったら、銅の板をいっぱい使ったりして作るのが結構大変だったんだよね。でも、一般魔法にクールって魔法があるでしょ? あれの魔法陣を使えばその効果範囲を通った空気は全部冷たくなるから風の魔石でそこを通るようにするだけですむし、必要なMPもライトとあんまり変わんないちっちゃな魔石でも作れるって僕、思ったんだ」

 台所のクーラーって板をいっぱい並べなきゃいけないし、夏になるとその板にいっぱいお水が付くから大変なんだ。

 でも、クールの魔法を使えば大きな範囲は無理でもちっちゃな箱の中くらいなら通った空気を冷やす事ができちゃうからね。

 この魔法陣さえ作れたら、すっごく簡単にクーラーが作れちゃうはずなんだ。

「ルディーン君、ちょっといい?」

「なに?」

「えっと、その空気を冷やす魔法は、くーるって言う呪文なの?」

 これを聞いてびっくりしちゃった。

 でもそっか。物を冷やすコールドならともかく、空気の温度を下げるクールなんて魔法があるなんて思わないのかも。

「うん。クールはね、あったかい空気を冷たくする一般魔法なんだよ」

 僕はステータス画面に載ってた魔法なんだよって教えてあげたんだ。

 そしたらバーリマンさんもロルフさんも納得したみたい。

「しかし、空気を冷やす魔法があったとはのぉ」

「ええ。ですがこれは朗報です。ルディーン君、それは指定した範囲の空気を冷やす魔法なのね?」

「うん、そうだよ」

「伯爵。すぐに呪文の文字記号を調べてみるので、早速魔法陣を書いてみましょう」

 なんでか、バーリマンさんたちが急に張り切りだしたんだよね。

 おかげで僕はまた放置状態。

「ルディーン君。旦那雅もギルドマスターも、しばらくはあのままでしょうから、此方へどうぞ。お茶を入れますわ」

 結局僕が帰る時間になるまでバーリマンさんたちはああでも無いこうでも無いって言いながら魔法陣を書いてたもんだから、

「まことに申し訳ありません。これ以上お引き留めしては親御さんが心配なさるでしょう。旦那様方にはわたくしから伝えて置きますから、今日はお帰りください」

「うん、じゃあまたね。ストールさん」

 僕はストールさんに見送られながら、ジャンプの魔法でお家に帰ったんだ。




 ホントこの研究馬鹿二人は……困ったもんだ。


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